乗り換えを決める前に整理しておくこと
保守会社の乗り換えは、業者を替えれば終わりという話ではありません。新しい会社がシステムの中身を理解し、安心して任せられる状態になるまでには一定の時間と費用がかかります。まずは「なぜ乗り換えるのか」をはっきりさせておくと、その後の判断がぶれません。
よくある乗り換えの理由
- 保守費用の内訳が分からず、毎月の支払いに見合っているか判断できない
- 問い合わせへの返答が遅い、修正を頼んでも「対応できない」と言われる
- 担当していた技術者が退職し、システムを分かる人がいなくなった
- 保守会社側から、事業縮小や技術者不足を理由に保守終了を告げられた
- クラウド化や業務の見直しを進めたいが、今の会社では対応が難しい
不満の内容によっては、乗り換えより先に「契約内容の見直し」や「対応範囲の話し合い」で解決できることもあります。たとえば対応が遅い原因が、そもそも契約上の対応時間の定めがないことにあるなら、条件を明確にするだけで改善する場合もあります。
乗り換えの目的を「費用を下げたい」「対応を早くしたい」「将来の改善まで相談したい」など一言で書いておくと、新しい保守会社を比べるときの物差しになります。目的があいまいなまま乗り換えると、費用だけ下がって対応はむしろ悪化したということも起こり得ます。
まず自社の契約書と現状を確認する
現在の保守会社に話を切り出す前に、手元の情報を確認します。ここを飛ばすと、解約のタイミングを誤ったり、自社に権利があるものを請求し損ねたりします。
契約書で確認したい点
- 契約期間と解約予告期間:「満了の3か月前までに申し出」などの定めがあるか。自動更新の条項があるか
- 成果物の権利(著作権など)の帰属:開発したプログラムの権利が自社にあるのか、開発会社に残っているのか
- 契約終了時の取り決め:資料やデータの返還、引き継ぎへの協力について書かれているか
- 機密保持:自社のデータの取り扱いと、契約終了後の削除について
契約書が見当たらない、または口約束で続いてきた関係も、中小企業ではよくあります。その場合は、発注書・見積書・請求書・メールのやり取りなど、取り決めの手がかりになるものを集めておきます。
システムの現状を把握する
あわせて、社内で分かる範囲でシステムの全体像を書き出します。どのパソコンやサーバーで動いているか、何の業務に使っているか、誰が使っているか、月末や年度末など忙しい時期はいつか、といった点です。新しい保守会社に相談するときにも、この情報がそのまま役立ちます。
現在の保守会社に依頼するもの(資料・ソース・アカウント・権利)
引き継ぎで最も重要なのが、現在の保守会社から何を受け取るかです。次のチェックリストを使い、何があって何がないかを一つずつ確認していきます。
- 資料:システムの構成図、設計書・仕様書、操作マニュアル
- 資料:これまでの障害対応・修正の履歴、問い合わせ記録
- 資料:定期作業の手順(バックアップ、月次・年次処理、証明書の更新など)
- ソースコード:最新版のソースコード一式と、本番で動いているものと一致しているかの確認
- ソースコード:プログラムを組み立て・設置するための手順や使用ツールの情報
- アカウント:サーバー・データベース・管理画面の管理者ID(自社名義で発行し直すのが望ましい)
- アカウント:保守会社名義で契約しているサーバー、ドメイン、クラウドサービスの有無と名義変更の可否
- アカウント:リモート接続(遠隔操作)用の設定や接続ツール
- 権利関係:プログラムの著作権の帰属、他社製の部品やライセンスの利用条件
- データ:保守会社側に保管されているバックアップやデータの返還・削除
「最新のソースコード」が手に入らないこともある
長年保守してきたシステムでは、手元の修正と本番環境が食い違っていたり、保守会社自身がソースコードを持っていなかったりすることがあります。受け取ったソースが本番と同じものかどうかは、新しい保守会社に確認してもらうのが確実です。ソースコードが手に入らない場合でも、システムの動きを調べて保守を続ける方法はありますが、判断が必要になるため、早めに状況を把握しておきましょう。
アカウントは「借りる」のではなく「自社で持つ」
サーバーや管理画面のIDが保守会社の社員名で作られていて、自社の誰もログインできないケースは珍しくありません。乗り換えを機に、管理者アカウントを自社名義で作り、自社が管理する形に改めておくと、今後また保守会社が変わる場合にも慌てずに済みます。切り替え後は、旧保守会社のアカウントや接続設定を削除・無効化することも忘れないようにします。
依頼の際は、口頭ではなくメールや書面で「何を」「いつまでに」「どの形式で」受け取りたいかを伝えます。後から「頼まれていない」「渡したはず」という食い違いを防げます。引き継ぎ作業が契約の範囲外として有償になることもあるため、費用の有無も事前に確認しておきましょう。
新しい保守会社の選び方と引き継ぎ調査
新しい保守会社を選ぶ段階では、価格だけでなく「古いシステムや他社が作ったシステムを引き継いだ経験があるか」を重視します。自社開発のシステムしか保守しない会社もあるためです。
比べるときの観点
| 観点 | 確認したいこと |
|---|---|
| 引き継ぎ実績 | 他社が作ったシステムや古い技術のシステムを引き継いだことがあるか |
| 事前調査 | 契約前に現状を調べ、リスクや不明点を説明してくれるか |
| 保守の範囲 | 障害対応、問い合わせ、小さな修正、定期作業のどこまでが含まれるか |
| 連絡体制 | 窓口は誰か、対応時間、緊急時の連絡方法 |
| 費用の内訳 | 月額の固定費と、作業ごとの追加費用の区別が明確か |
| 体制の継続性 | 担当者が一人に偏っていないか、引き継ぎ資料を残してくれるか |
引き継ぎ調査(現状調査)を挟む
いきなり保守契約を結ぶのではなく、まず現状調査を依頼する進め方が安心です。新しい保守会社が受け取った資料やソースコードを読み、実際のシステムと照らし合わせて「どこまで保守できるか」「どこにリスクがあるか」を報告してもらいます。調査の費用は、システムの規模や資料の揃い具合によって大きく変わるため、一般的な目安として事前に見積もりを取り、範囲を決めて依頼するとよいでしょう。
当協会でも、他社が構築した古いシステムの引き継ぎ調査を行っています。
並行期間を設けて段階的に切り替える
旧保守会社との契約が終わる日に、新しい保守会社がいきなり全面的に対応を始める形は避けたほうが無難です。旧保守会社に問い合わせができる状態のまま、新しい保守会社が実際の作業を経験する並行期間を設けます。
並行期間の考え方
長さはシステムの規模や複雑さによりますが、少なくとも月次処理を一度は経験できる期間を確保するのが一般的な考え方です。年に一度しか発生しない処理(決算、年度替わりの設定変更など)がある場合は、その時期をどちらが担当するかを事前に決めておきます。
| 段階 | 旧保守会社 | 新保守会社 |
|---|---|---|
| 1. 引き継ぎ準備 | 資料・ソース・アカウントを提供、説明会を実施 | 受け取った資料を調査し、不明点を質問 |
| 2. 並行期間 | 問い合わせ窓口として待機、質問に回答 | 定期作業・問い合わせ対応を実際に担当 |
| 3. 切り替え | アカウント・接続設定の削除、データ返還 | 正式な保守窓口として対応開始 |
社内への周知も忘れずに
現場の社員が、トラブル時に旧保守会社へ電話してしまうことはよくあります。切り替え日、新しい連絡先、問い合わせの方法を、パソコンの横に貼れる紙一枚にまとめて配っておくと混乱を防げます。
現在の保守会社が引き継ぎに協力的でない場合
多くの場合、保守会社は誠実に引き継ぎに応じてくれます。ただ、乗り換えを快く思われなかったり、担当者が不在で対応できなかったりして、資料の提供が進まないこともあります。
まずは冷静に、記録を残しながら依頼する
- 依頼内容をメールや書面で具体的に伝え、回答期限を設ける
- 引き継ぎ作業に費用がかかるなら、見積もりを出してもらい、支払う意思があることを示す
- 担当者だけでなく、相手の会社の責任者にも連絡する
- やり取りの日時と内容を記録しておく
相手にとって引き継ぎは売上にならない作業であることも多いため、正当な対価を払う姿勢を見せるだけで進むケースもあります。
協力が得られなくても打てる手はある
資料やソースコードが受け取れない場合でも、自社が管理者権限を持っているサーバーやパソコンがあれば、新しい保守会社がシステムの動きや構成を調べて、保守を続けられる状態にできることがあります。完全な引き継ぎができなくても、「止まったときに直せる」状態をまず確保することを優先します。
ソースコードの著作権の帰属、契約上の引き継ぎ義務、データの返還などで相手と意見が食い違う場合は、自社だけで判断せず、弁護士などの専門家に相談してください。契約書の内容や経緯によって結論が変わるため、一般論で強く主張するとかえって関係がこじれることがあります。また、相手の了承なくサーバーの設定を変えるなどの行動も、事前に専門家に確認するのが安全です。
まとめ
- 乗り換えの目的を明確にし、契約の見直しで解決できないかも一度検討します
- 契約書で、解約予告期間、成果物の権利、終了時の取り決めを先に確認します
- 旧保守会社には、資料・ソースコード・アカウント・権利関係・データの返還を書面で依頼します
- 管理者アカウントは自社名義で持ち、切り替え後は旧保守会社の権限を外します
- 新しい保守会社には現状調査を依頼し、並行期間を設けて段階的に切り替えます
- 協力が得られない場合は記録を残しながら依頼を続け、権利や契約の争いは専門家に相談します