保守契約の中身を確認すべき理由
システム保守契約とは、導入したシステムが安定して動き続けるように、障害対応や問い合わせ対応、小さな修正などを継続的に依頼する契約です。多くの中小企業では、システムを導入したときに開発会社から提示された契約書に、そのまま押印していることが多いのではないでしょうか。
問題は、「保守」という言葉の中身が会社ごとに大きく違うことです。ある会社では月額費用に軽微な修正まで含まれ、別の会社では障害の受付だけが対象で、実作業はすべて別見積もり、ということもあります。どちらが良い悪いではなく、自社が期待していることと、契約で約束されていることが一致しているかが大切です。
確認すべき書類
保守の条件は、契約書本体だけに書かれているとは限りません。次の書類をそろえて、まとめて読むようにします。
- 保守契約書(業務委託契約書、保守サービス契約書などの名称の場合もあります)
- 別紙・仕様書(保守の対象や作業内容が書かれた資料)
- SLA(サービスレベル合意書。対応時間や目標などを数値で定めたもの)があればその文書
- 直近の見積書・請求書(実際に何に対していくら払っているか)
- 開発時の契約書(ソースコードの権利などは、こちらに書かれていることがあります)
契約書が見つからない場合は、保守会社に写しを依頼して構いません。「契約内容を社内で整理したい」と伝えれば、通常は問題なく対応してもらえます。
範囲に関する4項目(何をやってもらえるか)
項目1:保守の対象となるシステムと範囲
対象のシステム名だけでなく、どの機能・どの機器までが含まれるかを確認します。たとえば「販売管理システム一式」と書かれていても、後から追加した在庫照会画面や、会計ソフトへのデータ連携部分が含まれているかは分かりません。追加開発した部分が保守対象に入っていない、というのはよくある見落としです。
項目2:保守に含まれる作業内容
一般的に、保守の作業には次のようなものがあります。どれが含まれていて、どれが含まれていないかを一つずつ確認します。
- 障害対応(不具合の調査と復旧)
- 問い合わせ対応(操作方法などの質問への回答)
- 定期点検(ログの確認、ディスク容量の確認など)
- バックアップの確認
- 軽微な修正(帳票の文言変更、項目の追加など)
- 法改正・制度変更への対応(税率変更、インボイス制度への対応など)
項目3:対象外となる作業
含まれる作業と同じくらい重要なのが、対象外として明記されている作業です。「利用者の誤操作による障害」「お客様が独自に変更した部分」「他社製品に起因する障害」などが対象外とされていることがあります。対象外の場合にどう扱われるか(有償で対応してもらえるのか、そもそも対応しないのか)も確認しておきます。
項目4:サーバー機・OS・市販ソフトの扱い
自社開発のシステムは、サーバー機やWindowsなどのOS、データベースソフトの上で動いています。これらの機器やソフトの保守が誰の責任になっているかは、契約によってまちまちです。サーバーが故障したとき、ハードウェアの手配は誰がするのか、OSのサポート期限が切れたときの対応は誰が提案するのか、を確認しておきましょう。
OSやデータベースのメーカーサポートには期限があります。たとえばWindows Server 2016は2027年1月12日(日本時間)に延長サポートが終了します(その後は有償の延長セキュリティ更新が最大3年)。SQL Server 2016は2026年7月14日に延長サポートを終えました。保守会社がこうした期限を把握して事前に知らせてくれる契約かどうかも、確認したい点です。最新情報はMicrosoftの公式ライフサイクルページで確認してください。
対応品質に関する3項目(いつ・どう対応してもらえるか)
項目5:受付時間と連絡手段
平日9時〜17時のみか、土日祝や夜間も受け付けるのか。電話、メール、専用窓口のどれで受け付けるのかを確認します。たとえば土曜日も出荷がある卸売業や、早朝から稼働する工場では、平日日中だけの受付では間に合わない場面があります。自社の業務時間と照らし合わせることが大切です。
項目6:対応の目標時間(SLA)
「受付から何時間以内に一次回答するか」「どのくらいで復旧を目指すか」が定められているかを確認します。中小企業向けの保守契約では、具体的な時間が書かれておらず「速やかに対応する」とだけ記載されていることも珍しくありません。その場合でも、障害の重さ(業務が全面停止、一部の機能が使えない、表示の不具合など)に応じた目安を、書面で確認しておくと安心です。
項目7:作業の報告と記録
どんな問い合わせや障害があり、どう対応したかを記録して報告してもらえるかを確認します。月次の報告書があれば、毎月の保守費用に見合った対応がされているかを判断できますし、将来保守会社を変えるときにも、過去の経緯を引き継ぐための重要な資料になります。
費用に関する2項目(いくらで、どこまでか)
項目8:料金体系と、月額費用に含まれる作業量
保守費用の決め方には、主に次のような形があります。
| 料金体系 | 特徴 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 月額固定 | 毎月一定額で、範囲内の作業は追加費用なし | 「範囲内」の定義。対応回数や時間に上限があるか |
| 時間契約(チケット制など) | 月○時間分などの作業時間をあらかじめ購入する | 使い切れなかった時間の繰り越し可否。超過時の単価 |
| スポット(都度見積もり) | 依頼のたびに見積もり・発注する | 緊急時の対応可否。見積もりまでにかかる時間 |
| 組み合わせ | 月額で監視や問い合わせ、改修は都度見積もりなど | どこからが別料金になるかの境目 |
月額費用が安く見えても、実際の作業がほとんど別料金になっていれば、年間の支払いは高くなります。逆に、月額にある程度の作業時間が含まれていれば、小さな改善を気軽に頼めるという利点があります。過去1年間に実際に払った総額(月額費用+追加作業費)を請求書から集計してみると、契約の実態がよく分かります。
項目9:追加費用の条件と料金改定のルール
範囲外の作業を頼んだときの単価(1時間あたり、1人日あたりなど)や、休日・夜間の割増の有無を確認します。あわせて、保守料金の値上げがどんな条件で、どのくらい前に通知されるかも見ておきます。更新のたびに一方的に料金が変わる契約だと、予算が立てにくくなります。
権利と終了に関する3項目(やめるときに困らないか)
契約を結ぶときには意識しにくいのですが、トラブルになりやすいのがこの分野です。保守会社が事業をやめる、担当者がいなくなる、対応に不満があって乗り換えたい、という事態は、どの会社にも起こり得ます。
項目10:ソースコードと資料の権利・保管場所
ソースコード(プログラムの設計図にあたる文書)や設計書の著作権が誰にあるか、自社が受け取れるかを確認します。この点は保守契約ではなく、開発時の契約書に書かれていることが多いので、両方を見てください。権利が開発会社に残っている場合でも、「自社での利用や、他社への保守委託のために使用できる」といった定めがあるかどうかで、将来の自由度が変わります。
あわせて、最新のソースコードがどこに保管されているかも確認しておきます。保守会社の担当者のパソコンにしかない、という状態は避けたいところです。
項目11:秘密保持・再委託・情報の取り扱い
保守作業では、顧客情報や取引データにアクセスすることがあります。秘密保持の条項があるか、作業を別の会社に再委託(下請けに出すこと)する場合に事前の承諾が必要か、リモート接続のルールやパスワードの管理方法はどうなっているかを確認します。個人情報を扱うシステムでは特に重要です。
項目12:契約期間・解約条件・終了時の引き継ぎ
契約期間と自動更新の有無、解約を申し出る期限(例:満了の3か月前までに書面で通知)を確認します。さらに重要なのが、契約終了時に、資料やデータの返却、次の保守会社への引き継ぎ説明に協力してもらえるかという点です。この定めがないと、乗り換えの際に必要な情報が手に入らず、次の会社が一から調査することになり、時間も費用もかさみます。
解約や権利の扱いは、契約書の書き方次第で解釈が分かれることがあります。既存の契約を見直す、あるいは揉めそうな点がある場合は、弁護士など契約の専門家に相談したうえで進めてください。
12項目チェックリストと見直しの進め方
ここまでの12項目を、チェックリストにまとめました。契約書と別紙を手元に置き、書かれているものに印を付けていくと、自社の契約で何が決まっていて何が決まっていないかが一目で分かります。
- 1. 保守対象のシステム・機能・機器が具体的に書かれている(追加開発分も含む)
- 2. 障害対応・問い合わせ・定期点検・軽微な修正・法改正対応のうち、含まれる作業が明記されている
- 3. 対象外の作業と、その場合の扱い(有償対応か対応不可か)が分かる
- 4. サーバー機・OS・データベースなどの保守責任と、サポート期限の通知について決まっている
- 5. 受付時間・受付方法が自社の業務時間に合っている
- 6. 一次回答や復旧の目標時間が、障害の重さごとに分かる
- 7. 対応内容の記録・定期報告がある
- 8. 料金体系と、月額に含まれる作業量(回数・時間の上限)が分かる
- 9. 追加作業の単価・割増と、料金改定の条件が書かれている
- 10. ソースコード・設計書の権利と保管場所、自社が受け取れるかが分かる
- 11. 秘密保持・再委託・リモート接続やパスワード管理のルールがある
- 12. 契約期間・解約通知の期限と、終了時の資料返却・引き継ぎ協力が定められている
見直しは更新時期の数か月前から
チェックの結果、決まっていない項目や自社の期待と違う項目が見つかったら、更新のタイミングで保守会社と話し合います。解約通知の期限を過ぎると自動で同じ条件のまま更新されてしまうため、更新日の3〜6か月前には確認を始めるのが一般的な目安です。
話し合いの際は、「対応が遅い」といった抽象的な不満ではなく、「土曜日の出荷時に障害が起きた場合の連絡先を決めたい」「月次で対応記録を共有してほしい」のように、具体的な要望として伝えると合意しやすくなります。すべてを契約書の改定で解決する必要はなく、覚書(契約書を補う簡易な合意文書)やメールでの確認で足りる場合もあります。
新しく保守会社を選ぶときにも、このチェックリストはそのまま使えます。複数社から提案を受ける場合は、12項目それぞれについて各社の条件を表に並べると、金額だけでは見えない違いがはっきりします。
まとめ
- 「保守」の中身は会社ごとに違う。契約書・別紙・SLA・請求書・開発時の契約書をそろえて読む
- 範囲(対象・作業内容・対象外・OSや機器の扱い)を確認し、期待とのずれをなくす
- 受付時間・目標時間・報告の有無で、いざというときの対応品質が決まる
- 月額費用に含まれる作業量と追加費用の条件を確認し、過去1年の支払い総額で実態を把握する
- ソースコードの権利、解約条件、終了時の引き継ぎ協力は、将来の乗り換えを左右する