1. 通知の中身を正確に確認する
最初にやるべきことは、通知に書かれている「何が」「いつ」終わるのかを、言葉どおりに正確に把握することです。「保守終了」という言葉は、会社によって指している範囲がかなり違います。
「保守終了」で終わる範囲は会社によって違う
たとえば次のようなケースがあります。
- 障害対応だけが終わる:システムが止まったときに駆けつけてくれなくなる。
- 改修・問い合わせ対応も終わる:帳票の変更や税率改定への対応、操作の質問にも応じてもらえなくなる。
- 製品そのものの提供が終わる:パッケージソフトの販売・更新プログラムの配布自体が終わる。
- 土台のソフトのサポートが終わる:自社システムは動いていても、その下で動くWindowsやデータベースのメーカーサポートが終わる。
最後のケースは、ベンダー(システム会社)側が「OSのサポートが切れるので、このままでは保守を続けられません」と伝えてくる形で起こることが多いものです。たとえばWindows Server 2016は2027年1月12日(日本時間)に延長サポートが終了し、その後は有償の延長セキュリティ更新(ESU)が最大3年提供されます。SQL Server 2016は2026年7月14日にすでに延長サポートを終えています。最新の日付はMicrosoftの公式ライフサイクルページで必ず確認してください。
ベンダーに確認しておきたいこと
通知を読んでも分からない点は、早めに書面(メールで十分です)で質問しておきます。感情的なやり取りは避け、事実を確認する姿勢で臨むのが得策です。
- 終了するのは「障害対応」「改修」「問い合わせ」「製品提供」のどれか(すべてか)
- 終了日はいつか。それ以降、有償でのスポット対応は可能か
- 保守を終了する理由(技術者不在、製品終了、OSのサポート終了など)
- 後継製品や移行先の提案があるか。ある場合の概算費用と期間
- ソースコード(プログラムの設計図にあたる文書)や設計書、データベースの構成資料を引き渡してもらえるか
- 他社に保守を引き継ぐ場合、引き継ぎ説明に協力してもらえるか
- 現在の契約書上、ソースコードやデータの権利がどちらにあるか
特にソースコードと資料を受け取れるかどうかは、その後の選択肢を大きく左右します。終了日を過ぎると担当者と連絡が取れなくなることもあるため、最優先で確認してください。
2. 対象システムの現状を棚卸しする
次に、通知の対象になっているシステムについて、社内で分かることを一枚の紙(またはExcel)にまとめます。専門的な内容でなくて構いません。後で他社に相談するときにも、この資料があるだけで話が格段に早くなります。
| 項目 | 書き出す内容の例 |
|---|---|
| システム名・用途 | 販売管理システム。受注入力、納品書・請求書の発行、売掛管理 |
| 使っている部署・人数 | 営業事務3名、経理2名。毎日使用 |
| 動いている場所 | 事務所のサーバー機1台(Windows Server 2016)、各PCから接続 |
| 導入時期・作った会社 | 2012年頃、通知元のA社が個別開発 |
| 手元にある資料 | 操作マニュアル(紙)、契約書。設計書・ソースコードは不明 |
| 連携しているもの | 会計ソフトへCSVで仕訳を出力、Excelで月次集計 |
| 最近の不具合・要望 | 月末に処理が遅い。インボイス対応は手作業で補っている |
| 年間の保守費用 | 月額○万円(契約書で確認) |
「動いている場所」が分からない場合は、普段の画面を開いたときのアドレスや、事務所の隅にあるサーバー機のラベルなど、分かる範囲で構いません。写真を撮っておくだけでも十分に役立ちます。
システム本体だけでなく、その周りにあるExcelマクロや手作業の工程も一緒に書き出してください。中小企業では、システムの出力をExcelで加工して初めて業務が回っている例が少なくありません。システムを入れ替えたときに、そのExcelが動かなくなる、というのはよくある落とし穴です。
3. 止まったときの業務への影響を見積もる
保守が終わっても、システムが翌日から急に動かなくなるわけではありません。問題は「壊れたときに直す人がいない」状態になることです。そこで、もしこのシステムが止まったら何が起きるかを具体的に考えます。
3つの観点で考える
- 業務の停止:止まったら、出荷・請求・給与計算などが何日止まるか。手作業で代わりができるか。
- お金と信用:請求書が出せない、納期に間に合わない、といった取引先への影響はあるか。
- 情報セキュリティ:インターネットにつながっているか。顧客情報や個人情報を扱っているか。OSのサポートが終わると、セキュリティ上の弱点が見つかっても修正プログラムが提供されなくなります。
たとえば、ある部品加工業の会社で生産指示書を出すシステムが止まった場合、「ベテランの工場長が紙で指示を出せば1週間は回る」のか、「図面番号と工程の紐付けがシステムにしかなく、その日から現場が止まる」のかで、急ぐべき度合いはまったく違います。クリーニング店の受付・預かり管理のように、毎日お客様と接する業務に使っているものも、止まったときの影響が大きい部類です。
「今まで一度も止まったことがないから大丈夫」という判断は危険です。サーバー機などのハードウェアは年数とともに故障しやすくなりますし、保守切れの後に壊れると、部品の手配も含めて復旧に時間がかかります。最低限、データのバックアップが取れているか、そのバックアップから戻せるかだけは、この段階で確認しておいてください。
4. 取れる選択肢を並べて比較する
現状と影響が見えてきたら、選択肢を並べます。ベンダーから後継製品への乗り換えを勧められることも多いですが、それは選択肢の一つにすぎません。主な選択肢は次の5つです。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 今のベンダーと条件を変えて延長交渉 | あと1〜2年で入れ替え予定がある。つなぎの期間がほしい | 技術者がいないことが理由なら難しい。費用が上がることが多い |
| 別の会社に保守を引き継ぐ | 業務に合っていて、機能面の不満が少ない | ソースコードや資料の有無で可否と費用が変わる |
| 今のシステムを改修・移設する | 中身は使えるが、土台のOSやサーバーが古い | 移設先での動作確認に手間がかかる |
| 市販のパッケージやクラウドサービスに切り替える | 業務が業界標準に近く、独自のやり方が少ない | 業務をサービス側に合わせる必要がある。データ移行の手間 |
| 新しく作り直す | 独自業務が強みで、市販品では合わない | 費用と期間が最もかかる。要件の整理が必要 |
「どれか一つ」に決める必要はありません。たとえば、当面は別会社に保守を引き継いで安定させ、その間に2〜3年かけて段階的に置き換えるという組み合わせは、予算が限られる中小企業では現実的な進め方です。
ソースコードがない場合
ソースコードを受け取れなかった場合でも、すぐに「入れ替えしかない」と決めつける必要はありません。動いている画面やデータベースの中身、出力される帳票から仕様を読み解き、保守を続けたり、必要な部分だけ作り直したりする方法もあります。ただし調査の手間がかかるため、判断材料をそろえてから比較するのが安全です。
見積もりは同じ条件で取る
複数社に相談する場合は、手順2で作った棚卸し表を共通資料として渡し、同じ前提で見積もりを取ります。初期費用だけでなく、5年間の総額(初期費用+月額費用×60か月+想定される改修費)で比べると、安く見えた案が実は割高だった、という見落としを防げます。
5. 期限から逆算してスケジュールを引く
最後に、保守終了日から逆算して、いつまでに何を決めるかを整理します。システムの切り替えや引き継ぎには、思った以上に時間がかかります。規模や状況によって大きく変わりますが、一般的な目安としては次のような流れになります。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 通知直後〜1か月 | 通知内容の確認、資料の受け取り依頼、棚卸し、影響度の整理 |
| 1〜3か月 | 複数社への相談・見積もり、選択肢の比較、社内での方針決定 |
| 3か月〜 | 契約、引き継ぎまたは移行作業、データ移行のテスト |
| 切り替え前1〜2か月 | 並行稼働(新旧を同時に動かして結果を照合)、操作説明 |
パッケージへの切り替えや作り直しを選んだ場合、移行作業だけで半年以上かかることも珍しくありません。通知から終了日まで1年を切っているなら、まずは延長や他社への引き継ぎで「つなぎ」を確保し、本格的な入れ替えはその後に落ち着いて進めるという二段構えを検討してください。
決算期や繁忙期(建設業の年度末、卸売業の年末商戦など)に切り替えを重ねないよう、業務カレンダーと照らし合わせて日程を決めましょう。切り替えは比較的落ち着いている月を選ぶのが基本です。
よくある失敗と避け方
最後に、保守終了の通知をきっかけに起こりがちな失敗を挙げておきます。
後継製品をそのまま契約してしまう
ベンダーの提案は、通知と同時に届くことが多く、「これに乗り換えるしかない」と感じてしまいがちです。しかし、他の選択肢と比べずに決めると、業務に合わない機能に費用を払い続けることになりかねません。少なくとも1〜2社には別の意見を聞いてから判断することをおすすめします。
担当者一人に任せきりにする
システムに一番詳しい社員に「何とかしておいて」と任せてしまうケースです。その人が日常業務の合間に対応するには荷が重く、検討が進まないまま期限が近づいてしまいます。経営者が判断の場に入り、期限と予算の枠を示すことが大切です。
データの持ち出しを後回しにする
どの選択肢を取るにしても、過去の取引データや顧客データは引き継ぐ必要があります。データの出力形式や出力方法を、ベンダーとの関係が続いているうちに確認しておかないと、後から取り出すのに大きな手間がかかります。
契約の解約条件を見落とす
保守契約の終了に伴って、ライセンスの扱いや資料の引き渡し義務がどうなるかは契約書次第です。不明な点や揉めそうな点がある場合は、弁護士など専門家に相談したうえで進めてください。
まとめ
- まず「何が」「いつ」終わるのかを書面で確認し、ソースコードや資料の引き渡しを最優先で依頼する
- システムの用途・利用者・動いている場所・周辺のExcelまで、社内で分かることを棚卸しする
- 止まったときの業務・取引先・セキュリティへの影響を見積もり、バックアップを確認する
- 延長、他社への引き継ぎ、改修、パッケージ切り替え、作り直しを、5年総額で比較する
- 期限から逆算し、時間が足りなければ「つなぎの保守+段階的な入れ替え」の二段構えにする
- Windows Server 2016 のライフサイクル(Microsoft)
- SQL Server 2016 のライフサイクル(Microsoft)
- 情報システム・モデル取引・契約書(IPA 情報処理推進機構)
※ 製品のサポート期限や制度は変わることがあります。最新の情報は各公式ページでご確認ください。