オンプレミスとクラウドの違いと、移行の種類

オンプレミスとは、サーバーなどの機器を自社の事務所やサーバー室に置き、自社で管理する形態のことです。一方クラウドは、インターネットの向こう側にある事業者の設備を借りて使う形態です。機器の購入や設置、故障時の部品交換は事業者が担い、利用者は月々の利用料を払います。

ひとくちに「クラウド移行」と言っても、実際にはいくつかのやり方があります。どれを指しているかで、費用も手間も大きく変わります。

移行の種類内容中小企業での例
クラウドサービスへの置き換え(SaaS)自社のシステムをやめ、既製のクラウドサービスに乗り換える社内のメールサーバーをやめてクラウドのメールサービスへ、会計ソフトをクラウド版へ
ファイル共有の移行社内のファイルサーバーを、クラウドのファイル共有サービスに移す図面や見積書を置いていた共有フォルダをクラウドストレージへ
サーバーごとの移行(IaaS)今のシステムを、クラウド上に借りたサーバーにほぼそのまま移す自社開発の販売管理システムを、クラウド上の仮想サーバーで動かす
作り直しを伴う移行クラウドで動かしやすい形にシステムを改修・再構築する古い言語で作られた受発注システムを、ブラウザで使える形に作り直す

「全部クラウドにするか、しないか」の二択で考える必要はありません。メールやファイル共有はクラウドに移し、業務システムは当面社内に残す、といった組み合わせも現実的な選択肢です。

クラウド移行を検討すべきタイミング

クラウド移行は、思い立ったときに始めるより、次のような「節目」に合わせて検討すると、費用や手間を無駄にしにくくなります。

サーバー機器の更新時期

サーバー機器は、一般的にメーカーの保守期間に合わせて5年前後で入れ替えを検討する会社が多いようです。保守期間が切れる前に、「同じように買い替えるか」「クラウドに移すか」を比較するのが自然な流れです。

OSやソフトウェアのサポート終了

たとえば Windows Server 2016 の延長サポートは2027年1月12日(日本時間)に終了します。その後は有償の拡張セキュリティ更新(ESU)を最大3年購入する方法もありますが、根本的な解決ではありません。また SQL Server 2016 は2026年7月14日に延長サポートが終了しており、Exchange Server 2016/2019 も2025年10月14日に終了しています。こうした期限は、移行を考えるきっかけになります。最新の情報はマイクロソフトの公式ライフサイクルのページで必ず確認してください。

働き方や拠点の変化

営業担当が外出先から在庫を確認したい、新しい営業所を出す、在宅勤務を取り入れる、といった変化があると、社内にしかないサーバーは不便になります。

管理できる人がいなくなる

サーバーの面倒を見ていた社員の退職や、付き合いのあった業者の廃業も、大きなきっかけです。クラウドにすれば機器の管理は減りますが、設定やアカウントの管理は引き続き誰かが担う必要がある点は覚えておいてください。

ポイント

期限が迫ってから検討を始めると、比較する時間がなく、言われるがままの選択になりがちです。サーバーやOSの期限が分かっているなら、少なくとも1年前には検討を始めるのが理想です。

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移行すべきかを判断する基準

クラウドに向いているかどうかは、会社の規模よりも「どんなシステムを、どう使っているか」で決まります。次のチェックリストで、自社の状況を確かめてみてください。

チェックリスト:クラウド移行を前向きに検討してよい状況
  • 社外(外出先・自宅・別拠点)からシステムやファイルを使いたい場面がある
  • サーバーの管理を担当できる社員がいない、または一人に偏っている
  • サーバー室の空調や停電対策、バックアップの保管に不安がある
  • 使っているソフトウェアに、クラウド版や後継のクラウドサービスがある
  • 利用者数やデータ量が、季節や事業の伸びで変わりやすい
  • 社内のインターネット回線に、ある程度の速さと安定性がある
  • 機器の買い替えのたびに、まとまった出費が発生するのを避けたい

費用は「総額」で比べる

クラウドは月額費用だけを見ると割高に見えることも、逆に安く見えることもあります。比べるときは、5年程度の期間で次の費用を並べてみるのが一般的です。

比較する費用オンプレミスクラウド
機器サーバー本体、UPS(停電時の予備電源)、バックアップ装置の購入費原則不要(利用料に含まれる)
ソフトウェアOSやデータベースのライセンス利用料に含まれる場合と別途必要な場合がある
運用保守契約、故障時の対応、電気代、設置スペース月々の利用料、通信量に応じた料金
回線社内利用中心なら現状のままでよいことが多い回線の増強や予備回線が必要になる場合がある
移行新サーバーへの移し替え作業移行作業、場合によってはシステムの改修

クラウドの利用料は、サーバーの性能、データ量、通信量、利用時間などで変わります。見積もりを取る際は、「今の使い方を前提にした月額」と「データが増えた場合の月額」の両方を出してもらうと、想定外の請求を避けやすくなります。

正直に言うと「クラウドに向かない」ケース

クラウドを勧める情報は多いですが、実際には社内に置いたままのほうが合理的なケースもあります。次のような場合は、無理に移行せず、オンプレミスの継続や部分的な移行も含めて検討してください。

工場の機械や計測器と直接つながっている

製造業で、生産設備・検査装置・計量器などとサーバーが社内のネットワークで直接やり取りしている場合、クラウドに移すと通信の遅れや、インターネット回線の障害で現場が止まるリスクが生じます。設備側の改修が必要になることもあります。

インターネット回線が止まると業務が止まる

クラウドは回線が切れると使えません。出荷や受付など、数時間止まるだけで大きな損失が出る業務で、予備回線を用意するのが難しい場合は、社内に置いたほうが安心なこともあります。

大量のデータを頻繁にやり取りする

CADの大きな図面ファイルや、大量の画像・動画を毎日社内で開いて保存する使い方では、回線の速さが追いつかず、作業が遅くなることがあります。クラウドからデータを取り出す通信に料金がかかるサービスもあり、費用が膨らむ原因になります。

古いシステムで、そのままでは動かない

古いOSでしか動かないシステムや、特定の機器(ドングルと呼ばれるライセンス用のUSB機器など)を必要とするソフトは、クラウド上では動かせない、または動かせても事業者のサポート対象外になることがあります。ソースコードがなく改修できない場合は、まず現状を調べることが先決です。

取引先や業界のルールで、データの置き場所が決められている

取引先との契約や業界のガイドラインで、データの保管場所や管理方法が細かく定められている場合があります。契約内容の確認が必要であれば、専門家にも相談してください。

注意

「クラウドにすれば安くなる」「クラウドにすれば管理が要らなくなる」とは限りません。安定して長く使い続ける業務システムでは、5年間の総額でオンプレミスのほうが安くなることも十分あり得ます。移行は目的ではなく手段です。

クラウド移行でよくある失敗5つ

失敗1:サーバーの中身を把握しないまま移行を決める

「販売管理が入っている」とだけ思っていたサーバーに、実は夜間の自動バックアップ、プリンターの設定、別部署が使う小さなツールなどが同居していた、という例はよくあります。移行後に「あれが動かない」と気づくと、業務が止まります。まず、何が動いているかの棚卸しが必要です。

失敗2:回線とネットワークを後回しにする

移行してみたら、画面が重くて仕事にならない。原因は社内の回線や古いルーターだった、というケースです。システムの移行と同時に、回線の速さ・安定性・予備回線の要否を確認しておく必要があります。

失敗3:月額費用が想定より膨らむ

試しに作ったサーバーを止め忘れていた、データが増えて保存料金が上がった、性能を高めに設定したままだった、などで請求額が想定を超えることがあります。毎月の請求額を誰が確認するかを決め、上限を超えたら通知が届く設定をしておくと安心です。

失敗4:アカウントや権限の管理が甘くなる

クラウドは、インターネット経由でどこからでも入れる分、パスワードの使い回しや退職者のアカウントの放置が大きなリスクになります。管理者のアカウントを一人の社員や外部業者だけが握っていて、その人と連絡が取れなくなると、自社のデータなのに手が出せない事態にもなります。管理者権限は会社として複数で管理し、二段階認証(パスワードに加えてスマートフォン等で本人確認する仕組み)を設定しましょう。

失敗5:「クラウドだからバックアップは不要」と思い込む

クラウド事業者は設備の故障には備えていますが、社員の誤操作による削除や、ウイルスによるデータの暗号化まで、すべて元に戻してくれるとは限りません。どこまでが事業者の責任で、どこからが利用者の責任かは、サービスごとの規約で確認が必要です。自社でもバックアップの方法と、戻す手順を決めておきます。

失敗しないための進め方

最後に、中小企業がクラウド移行を進める際の一般的な手順をまとめます。

  1. 現状の棚卸し:サーバーで動いているシステム、使っている人、データ量、つながっている機器、保守契約の期限を一覧にします。
  2. 移行するもの・しないものを分ける:メールやファイル共有など置き換えやすいものと、業務システムのように慎重に扱うべきものを分け、それぞれの方式を決めます。
  3. 費用を総額で比較する:5年程度の期間で、オンプレミス継続とクラウド移行の総額を比べます。
  4. 試験移行:一部のデータや一部の部署で先に試し、速度や使い勝手、印刷などの周辺機能を確かめます。
  5. 本番移行と並行稼働:繁忙期を避けて移行日を決め、しばらくは旧環境もすぐ使える状態で残しておきます。
  6. 旧環境の片付け:問題がないことを確認してから、旧サーバーのデータを確実に消去して処分します。

すべてを一度に移す必要はありません。たとえば「今年はファイル共有とメール、来年は業務システム」のように段階を分けると、社内の負担もリスクも小さくできます。

まとめ

  • 「クラウド移行」にはサービスへの置き換え、ファイル共有の移行、サーバーごとの移行、作り直しなどの種類があり、組み合わせて考えられます。
  • サーバーの更新時期やOSのサポート終了(Windows Server 2016 は2027年1月12日)は、検討を始める良い節目です。期限の1年前には動き始めましょう。
  • 判断は社外からの利用、管理者の有無、回線環境などで行い、費用は5年程度の総額で比べます。
  • 設備と直結したシステム、回線停止が致命的な業務、大容量データを扱う業務、古くてそのまま動かないシステムは、クラウドに向かないことがあります。
  • 中身を把握しないままの移行、回線の後回し、費用の膨張、アカウント管理の甘さ、バックアップの思い込みが典型的な失敗です。棚卸しから順に進めることが一番の対策です。
参考資料・公式情報

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